慎み深きマイノリティとヘイトスピーチ規制に関して

今回の事件*1について語る在日朝鮮人の方の記事を読んだ。名前を李さんという。
ヘイトスピーチ規制について

簡単に同意できるような問題ではないことは、よく知っている。表現の自由への侵害、ということだけでなく、規制が権力の側の都合のいいように使われる、ということへの恐れを語る人が多いのも、わかる。

なにかを規制するということは、当然弊害も伴う。だがそれも、野放しにしておいたときに、どういう事態が起こるか、という判断とのバランスの問題だし、弊害をどれほど押さえ込むか、という知恵の問題だろう。
http://www.yhlee.org/diary/?date=20090412#p01

驚いたことに、日本では差別の被害に遭いかねないこの方が、ヘイトスピーチ規制に対して、全面的な賛意を示してはいないのだ。
今回の件では、どちらかというと日本民族である私ですら*2新風関係者の無茶苦茶下品な行為に怒りを覚えている。
正直、朝鮮系の民族主義団体からヘイトスピーチ全面規制を猛然と主張されたとしても、正面切って反論するのが躊躇われるぐらいだった。*3
なのに、事件の潜在的被害者であるこの方ですら、表現の自由の重要性を説き、その規制がもたらす弊害に深い思慮を見せているのだ。

私は、この李氏の姿勢に頭を下げざるを得ない。
こういう方がいてこそ、世の差別問題は対話と解決をもたらすのだ。

さらに、今回の加害者(警察的には被害者扱いだけど)たる新風関係者の前科が流布されていることについてこう述べている。*4

それと、前科の話が本当かどうかわからないが、それをどうこう言うのは、別の種類の偏見を垂れ流しているだけでしょう。下品だという以前に、人権を守るという意味で問題だ。

これを読んで、正直震えた。
この人は、日常生活でも外国人排斥運動とも遭遇する環境にあるのだ。いつ何時その方面の団体に目を付けられて攻撃対象になるかわからない。*5
そのような環境にありながら、差別主義者への反撃が度を過ぎないよう、自制を促しているのだ。

これを見て新風の面々はどう思うのだろうか。
いわゆる極右の方々は、やれ大和魂だ、慎み深さだ、と唱える。
だが実際はどうか。街中で異民族をつかまえて面罵し、それを悪いとも思っていない。*6
各種愛国系ブログや2chでは相変わらず知性と品位を疑う下卑た差別的言辞が撒き散らされている。*7
他方、上の記事を記した李氏は、そのような不当な攻撃を力ずくでねじ伏せることの危険性にまで視野を及ぼしているのだ。

外国人を差別する全ての方、ことに新風の構成員に述べたい。
あなた方は、あなた方が無慈悲に攻撃している相手から、気遣われているのだ。
口汚く面罵している相手が、あなた方より慎み深く、思慮に富み、あなたを労わっている可能性すらあるのだ。
あなた方は、人格の個別独立性を無視して何かしらの属性で差別することを改めなければならない。
さもなくば、あなた方はそびえ立つ○○だ。*8

*1:維新政党新風の関係者が韓国系の青年を面罵→青年が逮捕される http://d.hatena.ne.jp/sube-sube/20090409/1239294904

*2:私は沖縄人。といっても民族主義者というわけではなく、日本人としての属性も自認しているし、誇りにも思っている。上京して4年になるが差別を受けたという経験は無く、非常に幸せに生活できている。

*3:私は、表現活動の規制は基本的に内容中立規制のみ許容されるという立場を採っている。要するに、表現の内容ではなく、真夜中の大音量を禁止するとか景勝地付近で電飾を控えるといった、時・場所・方法といった外形的要素を基準とした規制はOKと考えている。「けしからぬ内容」を基準とすると、いきおい少数意見が抹殺されるからだ。そして、表現自体が規制される結果、再度復興し、検討に晒す余地も無くなってしまう。そのため、差別的言論も、基本的には規制するべきではなく、言論の自由市場で自然淘汰されるに任せるべきだと思っている。もっとも、名誉毀損罪・侮辱罪といった具体的個人の利益を害する場合に法が介入することは良しとしている。今回の件は、まさに侮辱罪が成立し、これによって対処せられるべきだと考える。

*4:本人との同一性は不明だが、政治団体関係者が保険金詐欺で逮捕されたとのニュースサイトの記事が存在する。これが、今回の加害者であるという情報が各所で散見される。

*5:本人は、自分が現実的に被害を受ける可能性はないとおっしゃるが、そうは思えない。彼らを支持する者のブログやYoutubeのコメントを見れば、在日朝鮮人であるというだけで相当の攻撃を受ける可能性はあると私は思う。http://www.youtube.com/watch?v=twIFPj2RpbM

*6:例えば、新風の副代表はあの恥ずべき映像を自分から公開し、しかも青年を徹底批判している。ほんとズレてるわ。 http://blog.livedoor.jp/the_radical_right/archives/52211875.html

*7:在日朝鮮人関係の法制度に不当な点があるなら、それを改めるべしという主張はまさに言論の自由の保障対象である。しかし、ネット上の言説を見る限り、相当の根拠を持った立論は数えるほどで、ほとんどは単なる差別意識に基づく中傷である。どこに慎み深さがあるのだと私は突っ込みたくなる。

*8:フルメタルジャケットのアレを挿れたし。侮辱罪での立件を主張しつつアレを書くと自己矛盾と言われかねないので自粛。