レイプ禁止に納得いかない人をどう説得すればいいのやら

憂 2009/04/28 16:54
どうしてレイプを嫌がる権利はあって、レイプする権利はないのでしょうか。
http://d.hatena.ne.jp/Prodigal_Son/20090418/1240059138#c1240905252

一体、なんと言えば納得してくれるのだろうか。
形式的には、「刑法がレイプを禁止しているから権利性が無い」、というのが答えになる。
ただ、憂氏は実質的根拠を問うてるのだろう。
これに対する回答は、難しい。
結局のところ、「レイプされない権利が普遍的価値観ないし正義として通用しているからだ」、と言わざるを得ないからだ。

普通の議論では、
「常識だろ。常識で考えて。」は禁句である。
「俺はけしからんと思う。故に、それはけしからん。」と同義で、議論のとっかかりが無い。

ところが、こういう自然権的権利・前法律的権利*1の根拠を問われると、結局のところ「常識だから」と言わざるを得なくなる。*2
生身の「常識」を振り回すのは議論の世界では恥ずかしいことで、どの点でどう価値判断を下したのかを明示しつつ論理を積み重ねるのがセオリーだと僕は思っている。
だから、憂氏が勝利宣言しちゃうのは仕方が無い面がある。

だから、もっと実質的に権利性の判断基準を明らかにしなければ彼は納得しないだろう。「常識」を説くにも、何ゆえにそれが常識として確立するに至ったのか、何ゆえに合理性が認められているのか、を説明しなくてはならないのだろう。

本当に疑問なのは非処女がレイプされてきづつく事があるのしょうか。使用済みなのに、悔しいです。

この文章からは、「傷つかない行為であればよく、傷つく行為はよくない」という彼のルールが読み取れる。

このルールを敷衍すれば

  • およそ人は苦痛を回避せられるべきである。
  • 他者に苦痛を与えてはならない。
  • 性的行為は強制されると苦痛が伴う。ゆえに、強いてはならない。

ということになりそうだが、彼は納得してない。

1人暮らし、電車で1人でのる、スカートで女を満喫して、化粧して上目使いでこび、男性のいる会社で働く、男性のいる学校に行く、そういう女の責任おちどはなにもないですか。1人暮らし、電車に1人で乗る女は自分からレイプを招いているとしか思えず、男性に文句を言えるのですか。
http://d.hatena.ne.jp/Prodigal_Son/20090428/1240905396#c1240907656


彼の問題点は

  1. 傷付かないレイプがあると思っている
  2. 自己の性欲を充足させる権利を不当に高く評価している
  3. 他者の日常行為の一般的自由を不当に低く評価している
  4. 合意なく人に行為を強制して当然と思っている

という所にある。

どれも彼の見識と価値観の問題で、非常識だと説いたところで、彼は納得すまい。
一体、どうすれば彼がレイプの不当性を納得してくれるのだろうか。

彼に他者との権利の調整という見地を提案したい

彼がオナニーやセックスで性欲を発散するのは当然の権利だ。国がこれを妨害することは認められない。
だが、他者に協力を強いる権利は、無い。無い。絶対無い。
彼の性的自由のみが抜群の権利を与えられているわけではなく、女性もまた性的自由を有しているからだ。(これすら彼は同意できないのだとしたら、もう話が進まないのであるが、どう考えているのだろうか。)

人の権利は必ず他者の権利と衝突する。
これを自分で抑制するのがマナーや道徳であり、特に重要な権利は法律で保護することで強制的に実現可能とし、更に重要な権利は刑法で処罰の対象とし、一層重要な権利は憲法という体系的に一番上の法で規定されている。
相互の欲求や利害を調整するために、こういうシステムが設けられている。全て、国民の意思に由来する。

調整に際しては、権利の壊れやすさであるとか、苦痛の大小、制限手段の最小性、衝突回避の容易性といった要素が考慮される。*3
そのシステムが出した結論が、「レイプは全面禁止」というルールである。
こういう理屈である。

  • 一般に、性欲を我慢するのは苦痛である。しかし、耐え難い苦痛ではない。
  • 性欲はオナニーや合意の上でのセックス、カネによるセックスで発散できる。これらは容易に実現できる。
  • 他方、レイプは被害者に甚大な苦痛を与える。加えて、回復困難である。
  • そうすると、前者を解決するために後者を容認することは出来ない。上に挙げた苦痛の大小その他の基準から明らかに不当だからだ。(ここで挙げたのは立法事実と言って、立法の前提となる社会的な価値観や事実である。これ自体不当、と言われたらもう話す余地が無い。)

こういう価値判断の結果ということで納得してくれることを期待したい。*4

それでも納得しないなら

でも、このコメントを見る限り不安でならない。

憂 2009/04/28 17:18
どこにいっても釣りだといわれる。
でも大真面目です、意見を聞きたいのです。
http://d.hatena.ne.jp/Prodigal_Son/20090428/1240905396#c1240906707

釣りでないならば、彼は女性を見るや激しいレイプ欲にかられ、常人には考えられない苦痛を感じるのであろう。そうでないと、ここまで社会通念からかけ離れた認識を持つことの説明がつかない。

こうなると、新しいテーマが出てくる。彼の苦痛をどうするか、である。
一般に妥当で動かしがたい法規でも、特異な素養から耐えがたい苦痛を感じる国民がいる場合、国はどうするべきか。

レイプ禁止を撤廃すべきでないのは上の通りで、何かしらの代替手段を以って彼の苦痛を減らすべきではないだろうか。*5
具体的にどうするのよ、と言われても困るけど。

*1:法律で規定するまでも無く権利としての性質を認められる権利

*2:勿論営々と築き上げられた正義にまつわる社会科学の成果が裏にあるのだろうけど、そこに言及する能力は僕には無い。

*3:たとえば、特定の内容の表現を禁止すれば、後に権利性を回復しようにも、その表現を議論の場に出すことすら困難になる。このような問題があるから、表現内容の規制は経済的自由お制限と比べて慎重であるべき、とされる。

*4:法律として成立したから、というだけでなく、実質的な根拠まで示しているのだから、「形式的」ではないと思う

*5:欲求の根を絶つとなると優生思想に繋がるので危ない。