受験生に危ない産経新聞

昨日のセンター試験の問題

最高裁判所は外国人のうちの永住者等に対して地方選挙の選挙権を法律で付与することは憲法上禁止されていないとしている」 正解:○


産経の記事。

選択肢で扱われた記述は平成2年に大阪で永住資格を持つ在日韓国人らが選挙権を求めて起こした訴訟の7年2月の最高裁判決を踏まえたものとみられる。
(略)
百地(ももち)章日大教授(憲法学)は「不適切な出題。外国人参政権付与に法的にも政治的にも多くの批判があり、まさに今重大な政治的争点になっている。判決自体はあくまで憲法に照らし認められないという立場なのに、傍論の一節のみを取り上げて、最高裁の立場とするのはアンフェアで一方に加担している」と話している。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100117/plc1001172302015-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100117/plc1001172302015-n2.htm

このコメント。よく読めば大間違いとまでは言わないけど非常に微妙な書き方。


その判例は、
定住外国人には地方選挙権が憲法で保障されているはずだから選挙人名簿に載せろ」
という請求に対して、
「権利として保障はしてないけど、永住外国人とかの地方選挙権なら与えてもいいよ。でも、与えないからといって違憲じゃないんだからね。与える与えないは国会で決めてね。」と言ってるんです。

百地教授に倣って判決自体と傍論を分けるならこうなる。

  1. 権利として保障はしてない
  2. 永住外国人等とかの地方選挙権なら与えてもいい
  3. 与えないからといって違憲じゃない

このうち1が判決自体で、2と3が傍論です。1で権利性を否定している以上、まあ百地教授のコメント太字部分も間違ってないよね。

でも、センター試験の当該問題は「最高裁の立場」を訊いてるんです。
主文、理由、傍論をいちいち分けてません。


憲法外国人参政権を禁止・許容・保障してるのかという問題は学説が分かれており、禁止説が多数説ではあります。
また、傍論部分の拘束力についても学説が分かれるところです。
しかし、判決文*1を見ればわかりますが最高裁判所定住外国人等の地方選挙権を限定的ながら容認している」ということ自体は議論の余地無く明らかです。ですから、このセンター試験の選択肢は何ら問題ありません。


傍論であれ、最高裁が判決でそう言っている以上は最高裁の立場だと理解するのが常識的ですし、主だった憲法の教科書も判例集もそう理解してます。当然、センター試験も学会の常識的見解に則って問題を作成します。
ですから受験生の皆さん。こういう新聞を読んでると落ちますよ。*2

傍論の一節のみを取り上げて、最高裁の立場とするのはアンフェアで一方に加担している

どっちがだよって話です。


外国人参政権付与に法的にも政治的にも多くの批判があり、まさに今重大な政治的争点になっているby百地教授」からこそ正確に現在の判例の立場を理解する必要があるんでしょうに。世の高校生はそれに応えて国政選挙と地方選挙、選挙権と被選挙権、保障と容認と禁止といった概念を前提としためんどくさい問題を解いてるわけじゃん。大学教授とマスコミが奇説で若者の頭をかき回すんじゃないよ。ほんと。

*1:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=25633&hanreiKbn=01

*2:大学に入ってから読むと味わい深いものがあります