リーク情報の扱い方

TBS

容疑者(48)のDNAの型と、荻野さんの遺体の首に巻かれていたストッキングから検出されたDNAの型が一致したことが新たにわかりました。

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4341207.html


×:「DNAの型が一致したことが新たにわかりました。」


○:「DNA型が一致したと捜査関係者が述べていることがわかりました。」



捜査機関の言い分が完全に正しいとは限らない。
これは一般論であるのみならず、刑事訴訟の基本的構造もそう設計されてるのだ。検察官が捜査結果に基づき訴追を求め、被告人が言い分を対等に主張して、裁判所が公正に判断するという建前が取られているのだ。その間、真実は不明*1なものとして扱われなければならない。理念的に問題があるだけでなく、報道機関が捜査機関に肩入れするならば被告人の防御権が害される恐れがあるからだ。素人が裁判に関わる現在では一層この点は慎重でなければならない。


だから、捜査機関が嫌疑を表明したとしても、それは確定的な真実として扱われるべきではなく、捜査機関の見解に過ぎないのである。
上の記事について言えば、「分かった」を係らせる言葉としては、「DNA型が一致したこと」ではなく「捜査関係者が述べていること」でなくてはならない。
実際に記者が証拠物を然るべき手法で検査してDNAを検出したり、捜査機関の鑑定作業を直接見たのであれば「検出されたことが分かった」と書いてもいいだろうけども、現実にそんなことはあり得ない。


報道機関がリーク情報を流すことには効罪両面あるだろうけども、リーク内容を真実だと断定的に扱うのは、明白に「罪」の面である。適切にリーク情報を扱う能力が無いのであれば、報道機関としては失格であって、役所にいいように使われる御用機関と呼ばれても仕方が無いだろう。


刑事訴訟法が現在の形となったのは昭和23年。それ以来、基本的な構造は変わっていないし、足利事件や松本サリン事件といった強烈に反省すべき経験も経てきた。
なのに、報道機関はどれだけ成長したのだろう。


以下、TBSほどで無いにせよ不適当な表現をしてる主要報道機関の記事。


毎日新聞

遺体の首に巻かれていたストッキングから、荻野さんを包丁で刺したことを認めた無職の男(48)=強盗強姦(ごうかん)未遂罪などで起訴=のDNA型が検出されたことが、捜査関係者への取材で分かった。

http://mainichi.jp/select/today/news/20100127k0000m040110000c.html

時事通信

荻野さんの首に巻かれたストッキングから、「刺した」と認めた住所不定、無職竪山辰美容疑者(48)=強盗致傷罪などで起訴=のDNA型が検出されたことが26日、捜査関係者への取材で分かった。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010012601029

読売新聞

供述通りに見つかったTシャツから、荻野さんのDNA型が検出されたことが26日、捜査関係者への取材でわかった。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100126-OYT1T01394.htm

朝日新聞

容疑者(48)の供述に基づき、包丁をくるんだ状態で現場近くで発見されたTシャツに付着した血液のDNA型が、荻野さんと一致したことが26日、捜査関係者への取材で分かった。

http://www.asahi.com/national/update/0126/TKY201001260443.html


「捜査関係者への取材で」という記述もあるので、ここを注意深く見れば、×ではなく△とも言いうる。しかし、予断を排除するには不十分すぎる。

  • 遺体の首に巻かれていたストッキングから被疑者のDNAが検出されたこと
  • 殺害を認める供述に従って発見した包丁に巻かれていたTシャツに被害者の血液が付着していたこと

いずれも、事実であれば一気に有罪に傾く重大な証拠となる。だからこそ、攻撃防御の最重要争点となると予想されるのであって、断定的表現は徹底して避けられるべきなのである。

*1:南京大虐殺なり強制連行なり、裁判を経ずとも裁判に代替する程の資料検証が経られてる場合には歴史的真実として扱っていいのは当然である。