法定更新を無視する不動産屋

友達から相談を受けた。
友人は都内で2年間の期間を定めてアパートを借りている。
上京して以来3回更新して今年で6年目が過ぎている。

ところが、今回は更新手続きが無かった。
どうも管理会社が潰れたらしく、更新に関する通知が来なかったそうだ。
友人は不審に思いつつも住み続け、2008年10月に契約期間は徒過した、
それ以降今に至るまで従前どおり賃料を振り込んできた。

ところが、最近になって新しい管理会社から連絡が来た。
要点は、
1.更新料を支払え
2.1日の延滞で直ちに解約し、荷物一切を撤去するとの新条項に同意せよ
3.旧契約書の原本を送付せよ。
3.これらを呑まないなら解除する
とのこと。


これは、明らかにおかしい。
借地借家法では、貸主が更新を拒むなら契約満期の1年〜半年前までにその旨を連絡しないといけない。
更新に際して契約条件を変更する場合も同様である。
これを怠ったら、従前どおりの条件で契約が更新される。これを法定更新という。*1

友人は怒った。
「6年間1度も延滞無く借り続けた実績を無視され、しかも潰れたとはいえ貸し手のミスで手続きが滞ったのにこの要求。電話しても高圧的な態度で、もう我慢ならない。金に余裕があれば出て行ってやりたいぐらいだが、そんな金も無い。少なくとも立ち退き条項は呑めない。だが呑まないと出て行けと言われている。サインするしかないのか。」



そこで、「法定更新が成立しているから再確認されたし」と伝えるようアドバイスした。


ところが、翌日友人からこんな返事が返ってきた。
「“契約書に更新すると書いてないので、更新されません”とか言ってるんだけど。」
これには絶句した。
この契約は更新が無い「定期借家契約」ではない。「契約期間満了時には、当事者は誠実に交渉し更新するものとする」という条項が書かれた普通の借家契約である。

当然、法定更新の適用がある。
というか、契約書で排除したとしても成立するから「法定」更新なのである。
これが成立した以上は、新しい契約書にサイン求められたとしても全く応じる義務は無いのである。
ゆえに、新しい条項を呑む義務も無けりゃこれを破っても債務不履行にはならない。*2
こんなの、宅建持ってりゃ誰だって知ってることじゃないの。

この不動産屋は更に、旧契約書の原本を送るよう要求している。コピーではない。
これ、
最悪訴訟になった場合に、賃貸借契約すら立証できないよう証拠を回収しとくぜ
という意図しか見えないんだけど。
まさかそこまでゲスい事までするまいと思いたいものの、上の交渉態度からすると有り得なくもなく、戦慄する次第。


要するに、この不動産屋の言い分はほぼ全面的に不当なのである。*3
もちろん、更新拒絶、債務不履行解除、解約申入れ、いずれも成り立たない。

恐ろしいのは、これを不動産屋が平気で主張してくること。
知らないはず無いじゃん。仮にも会社構えて賃貸でメシ食ってるんだから。
知っていてこんな無茶な請求をして追い出しを試みるなんて、強要罪の故意が無いなんて言えるわけがない。
この不動産屋は、それぐらい違法性の高いことをしている。
無数にいるであろう他の借主は、この不当性を知らないまま要求を呑まされているだろう。


友人はまた上の内容を伝えるらしいが、その後はどうすればよいのだろうか。
不動産屋が違法覚悟でカギ代えたりしたら、訴訟だってしんどくなる。
ほんと世の中どうなってんだ。不動産屋って、こういうやり口が日常的なのだろうか。*4

*1:借地借家法 第26条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。

*2:というか即立退き条項なんて最高裁判例が無いだけで一般的に無効なんじゃないの?

*3:ほぼ、というのは更新料について。法定更新時にも更新料の支払い義務があるかにつき、裁判例はわかれているからである。http://d.hatena.ne.jp/Lhankor_Mhy/20080414/1208174494

*4:ていうか、ここまでして追い出したがるって一体ナニが目的なの?不動産屋としては賃料収入があるに越したことは無いんじゃないの?まして6年間延滞なしの優良借主だよ?