新風のオッサンを起訴しなきゃ日本の民度が問われる


維新政党新風の関係者が路上で韓国人らしき青年を罵倒して張り倒される映像が流れている。
出元は新風副代表瀬戸氏のページ。何を勘違いしてるのか自分に有利な映像が消されるのはおかしいとyoutubeを罵っている。
http://blog.livedoor.jp/the_radical_right/archives/52209703.html
http://blog.livedoor.jp/the_radical_right/archives/52211875.html

さんざん某巨大掲示板でこの差別主義者のオッサンを糾弾したけど差別主義者って後から後から湧いてくるのね。矯正は不可能だと悟りました。*1
そういうわけで、判例通説に従ってそうそう動かせない「法的見解」を書いておくことにした。



法的にはどうなるか

  • 青年の行為

 結論:暴行罪(刑法208条)が成立する。*2
 理由:暴行罪は人に対する不法な有形力の行使によって成立する。
 有形力は直接身体に向けられなくてもよく、傍に石を投げつけたり抜き身の刀を振り回すだけでも成立する。
 傷害罪と行為は同様であるものの、傷害に至らない場合に本罪が成立する。*3
 今回、オッサンに掴みかかって押し倒しているので暴行に当たることは明白である。傷害に至っているかは不明である。
 結果、最大で2年の懲役が課されることになる。*4

  • オッサンの行為

 結論:侮辱罪(刑法231条)が成立する。*5
 理由:侮辱罪でいう「侮辱」とは他人の人格に対する侮蔑的評価の言明である。
これが公然、つまり多数または不特定人に対してなされることで成立する。
「おい田中のアホ」という一般的に侮蔑的といえる表現であれば、事実の真否どころか、単なる価値判断であっても成立する。*6
今回、このオッサンは「大嫌いだから、大っ嫌いなんだよ、この日本から叩き出してやるよ、え、ゴミが、朝鮮人と発言している。
無論、侮辱である。
また、不特定多数が通行する街頭であることは明らかだから、公然性も満たす。
以上から、侮辱罪が成立する。



で、実際罰せられるのか


ここまでは刑法の話。
ところが、必ずこうなるわけではない。
侮辱罪は親告罪と言って、被害者の告訴が無ければ検察官は起訴しえない。*7
また、告訴しても検察官が起訴しなければそのまま落着なのである。
起訴する、しないは検察官の専権となっており広範な裁量が認められている。*8
理論的に犯罪が成立する場合でも、刑罰を科すほどでもないという事情を考慮することができるのである。
これを起訴便宜主義だとか起訴独占主義という。
その結果、微罪でも犯情だとか態度だとかを考慮して起訴されることもあれば
重罪であっても起訴されないこともある。



検察官の判断が国の評価を左右する


問題は、今回名古屋地検の検察官がどう判断するかである。
ここで、この青年だけが起訴されて、新風のオッサンが不起訴となれば、訴追裁量の逸脱が強く疑われる。
というか、日本という国の対外的評価が終わる。
暴行の原因は、言うまでも無くこのオッサンの発言である。

「大嫌いだから、大っ嫌いなんだよ、この日本から叩き出してやるよ、え、ゴミが、朝鮮人。」

これは、ゲロである。世界的にゲロである。
憲法前文に14条に世界人権宣言に国際人権規約Bに、およそ近代法を備える国のどこでどうやっても擁護しようの無い、ヘイトスピーチの典型例と言っていい、ゲロそのものの発言なのである。
これら法令は、歴史的に人権侵害の契機となった人種や国籍といった事由による差別を防ぐため念には念を入れて民族等による差別を明文で禁止しているのである。
今回の行為は、まさにこの念入れを正面から張り倒しているのである。*9
「田中のアホ」「鈴木のバカ」とはレベルが違うのである。

外国の路上で発言すりゃ韓国人で無くとも飛び蹴りをかますだろうし、暴動に発展して街が燃えまくっても暴徒並、あるいはそれ以上の批判的扱いを受ける。*10
ニュースキャスターだってこぞって差別主義者はくたばれという趣旨の発言をするだろう。
とても、「言論の自由でござい」と開き直れるものではない。*11

繰り返すが、この発言はゲロなのである。
「黒人はクソだ」「ユダヤ人はクソだ」という発言と同価値にゲロなのである。
こんなゲロ発言が公然と路上でなされていることが外国に知れちゃ、国辱ものである。
差別主義者が路上で楽しく差別的言説を振りまけるようじゃ、「日本って民度の低い国だよね」だという評価を受けることになるのである。必ず。
というか、既に繰り返しYoutubeで転載され各国からのコメントが付きまくりなのである。
侮辱罪自体は個人適法益の保護を目的としているものの、事実上害される国家的法益はとんでもないことになっている。

これは、侮辱罪が想定しうる最悪というべきケースなのである。これを機に拘留・科料という軽すぎる法定刑を改めていいぐらいである。
しかも、そのへんの酔っ払いでもない、中学生でもない、分別ある年齢の中年が、政治活動の一環で行った犯罪である。
というか、上役の副代表も全く悪びれるそぶりを見せていない。
この映像が自分にとって有利に働くとすら思い込んでいる。だめだこりゃ。
http://blog.livedoor.jp/the_radical_right/archives/52211875.html

起訴裁量の考慮要素として、犯情の悪質さ、被害の重大性は当然含まれるんだから、
これほど重大かつ明白な侮辱を起訴しなきゃ一体ナニしたら侮辱罪で起訴できるんだということになる。
少なくとも、この青年を勾留したのであれば(起訴に至らずとも)新風のオッサンも起訴を視野に入れて念入りに捜査するべきである。
これぐらいのバランスが取れないと、絶対におかしい。



関係者のなすべき事

以上から、今回被害にあった青年をご存知の方は、速やかに告訴に踏み切るよう説得するべきである。
名古屋地検の検察官は、国の威信がかかった事案であることに鑑みて、被害者が告訴に至れるようお膳立てを万全にすべきである。
明日にでも新風関係者に事情聴取するなりビデオテープの任意提出を求めるべきである。*12
新風と関係のある右翼諸団体は、非難声明を発するべきである。
日本人はゲロのような差別主義者を只では済まさぬという意思を示すことこそが、愛国的な行為である。
かれが刑に服さない限り、日本人の名誉は回復されない。

*13

*1:この点はてなは安心だわ http://d.hatena.ne.jp/dj19/20090408/p1

*2:刑法第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

*3:傷害、とは生理的機能に障害を生ぜしめること、と理解されている。転んでもおおよそ切り傷擦り傷が生じなければ傷害にはならない。

*4:私見ではオッサンの行為の違法性がとんでもなく高いことから正当行為として違法性阻却を主張したいものの、難しいだろうね。

*5:刑法第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

*6:名誉毀損罪とは、「田中は児童性愛者だ」といった人の社会的評価を低下させるような「事実についての摘示」を不用とする点で異なる。

*7:刑法232条1項 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

*8:刑訴法は以下のように単純な規定しか設けていないが、このように解されている。組織法たる検察庁法もこれに倣って定められている。刑訴法第247条 公訴は、検察官がこれを行う。検察庁法第5条 検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。

*9:立法者よ、あなたの懸念は正しかった。

*10:著名な大暴動で差別主義者が悪くないなんて評されたケースがあれば教えてほしい

*11:憲法21条で保障されてるじゃんとか言い出す向きは、名誉毀損罪・侮辱罪という表現そのものを規制する刑罰法規であるにも関わらず違憲説を唱える憲法学者が一人もいないことを想像するように。

*12:告訴は公訴要件であって捜査要件でないから、告訴の余地が絶対皆無でない限り捜査は禁止されない

*13:このエントリこそ名誉毀損罪じゃんとか言い出す人は刑法230条の2第2項を見ること。公益目的で無いというならどうぞ告発すりゃいい。高いぞ。損害賠償。刑法230条の2第1項前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。 第2項  前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。