東京都水道局のワッペンと行政規則

 東京都下水道局の新制服用ワッペン約2万個が内規違反のデザインだとして、約3500万円かけて作り直していたことが分かった。新デザインは波線1本が消えただけの違いで、公費の無駄遣いとの指摘もありそうだが、同局は「内規違反は放置できなかった」としている
http://www.asahi.com/national/update/0410/TKY200904100096.html

バカじゃねえか…幹部は処分…ワッペン作り直しで石原知事
 最初のワッペンには、イチョウ形の都シンボルマークの脇に、水色の波線が添えられたが、同局は、「マーク使用の際に他の要素を加えない」という都の内規に反すると判断し、作り直した。内規は、マーク制定の1989年に作られたが、都の担当課は「使用方法で混乱しないよう一定の約束事を設けたが、強制ではない」としている

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090410-OYT1T00769.htm


法的にはどうだったのか

今回の「基本デザインマニュアル」という名称から、行政規則だと推測できる。*1
そこで、行政規則に関する確立したルール(だと僕は理解している*2)のうち、今回の件に関連するものを列挙する。

ルール

  1. 行政規則の制定権は行政機関内部にあり、組織法の権限分配によって定まる。法律は国会でのみ制定されるが、そこで定めるのが不経済な細かい事項は現場に近いところで決めさせる、という趣旨。
  2. 行政規則の目的とするところは、法令に基づく行政活動の適正な遂行である
  3. 行政規則の内容は基本的に法令が授権した範囲内に限られるが、法令の趣旨に反せず、かつ、行政活動を適正に遂行するという目的に適合する限りで、法令の授権なき範囲でも制定可能
  4. 行政規則の違反は組織内の規律違反という問題を生じるにとどまる。基本的に遵守するべきであるが、1により権限ある部局が事後的に承認して瑕疵を治癒することも可能である。

要するに、行政規則は職場内のルールであって、かなり自由に決められる。
行政規則が事実上法令の解釈を左右する場面もあって、この場合は法令を適用される市民への影響もよっぽど考慮しないといけない。結果、そうそう変えられるものでもなくなる。*3
でも、今回は職員が使うワッペンのデザインが問題になっているだけ。都民に対する何かしらの影響を考慮する必要は無い。やろうと思えば石原氏の鶴の一声ですげえファンキーなデザインにもできたはず。

ということで、今回は、ルール4によって、関係部局が然るべく調整し決済を経れば、そのそのまま使い続けるという選択は十分に可能だったということになる。
もちろん、そのようなワッペンを使い続けることが法律または条令の趣旨に反し、あるいは内規を軽視する風潮を抑制する必要があり、かつ、3000万円を投じて修正するに足りる瑕疵なのであれば、作り直すという判断は適正だったことになる。
ところが、今のところ、そうした事情は見当たらない。
「内規違反は放置できなかった」とコメントしているのみで、それ以外の理由を匂わせてはいない。

こちらではデザイン業界の方が外注先の責任だとされてるようだけど、それでもデザイン変更が契約上不可能というわけでない限り、東京都のほうで好きに変更できるはずで、そちらの業界の方が責任を感じる必要は無いんじゃないかなと思う。
http://shinzlogclips.blogspot.com/2009/04/blog-post_10.html

水道局の幹部が行政規則の性質をわかってないのか、わかってて何かしらの見えない理由でこういう事態となったのか、僕の理解が素っ頓狂なのか、詳しい人、教えてくれないだろうか。

*1:法律や条令にワッペンをどうこうするという根拠が見当たらないし、だいたい上位規範ならもっといかつい名称だろうね

*2:塩野宏 行政法1、芝池義一 行政法総論講義に基づく。組織法の巻により詳しく載ってるんだろうね。試験に出ないから買ってないんです。

*3:許可を出すや出さざるやの微妙な要件だとか法令解釈の微妙なところについて。著名なものとして、宗派に関わりなく埋葬を受け付けなきゃ法律違反になるよ、と役所が解釈を変更して寺が争った事例がある。もちろん法律の最終的な判断は裁判所の役割だから、裁判所はこれに縛られず自分で正しいと思うところに従って法律を適用できる。でも、行政庁が示す解釈は裁判所も追認する可能性が高いし事実上重大な影響を持っているので問題になる。もっとも、この裁判では通達に法的拘束力が無いから争うまでも無いということで訴え却下となっている。墓地埋葬法違反で起訴されたときに争えばいいじゃん、ということ。