カメムシ

都落ちした私は母校の大学7階で海を眺めていた。
死ぬか。そんなことを考えながら呆けていると、
「ブ」
「ブ、ブ」
という羽音が聞こえた。
カメムシであった。
外に出たいのをガラスに遮られ当惑している様子であった。





私は彼を優しくつまんだ。鮮やかな薄緑が美しい。
















窓際に降ろすと、彼は一瞬躊躇したのち飛び立った。
風に翻弄されながらも羽ばたいて、そして消えた。
ここは7階。かれらカメムシが自力で至れる高さではない。
彼はそびえる巨石と、それすら見下ろす高さから世界をみた。
仲間と合流したとき、その絶景を伝える言葉を彼は持たない。